第6話で出てきた計算式「石+地+取った石=得点」。そこから最後に2点ずつ引いていたのを覚えていますか?それが「切り賃(きりちん)」です。
ひとことで言うと、「石のかたまり1つにつき、得点から2点引く」決まり。……ちょっとややこしいですよね。でも、図を見ればスッキリわかります。
📌 この回でわかること
- 切り賃の2点は、何を引いていたのか
- 石が何か所に分かれているかで、点数が変わるわけ
- なぜ切り賃が必要だったのか
📖 原稿より
引いていた2点の正体

上の図は、第4話「碁の終わりかた」で見た終局の図だ。
白も黒も、石を置かない点が2つずつ、合わせて4点ある。ルール上、石を置くことができない点、いわゆる「二眼(飛島)」で、石が活きていることの証明でもある。
第6話の計算では、得点から「切り賃」として2点を引いた。これは、本来は数えない「二眼(飛島)」の2点を引いていたのだ。
「石+地+取った石=得点」で数える地には、この二眼の点も入っている。でも古典碁では、二眼には石を置けないので得点にならない。この、本来は数えないはずの2点を「切り賃」という。中国では「数塊子」と呼ぶ。
石が分かれていると、どうなる?
白も黒も同じ2点なら、引いても引かなくても勝ち負けは変わらない。では、次の図を見てみよう。

A図はいまの碁の終局図。B図は古典碁の終局図で、石を置けるところに全部置いて終わったものだ。
- B図(古典碁):黒石38個、白石37個で黒の1目勝ち
- A図(石+地で数える):黒40、白41で白の1目勝ち
勝ち負けが逆になってしまった!
理由は、B図では空いている二眼の点を、A図では得点として数えているからだ。古典碁では、石のかたまりごとに二眼を残さなければならない。黒は1つのかたまりなので2点、白は2つに分かれているので4点。A図の数え方では、ここが考えに入っていない。
そこで、A図の得点から切り賃「黒2点、白4点」を引く。
- 黒 40−2=38
- 白 41−4=37
→ B図と同じ、黒の1目勝ちになる。
つまり、いまの碁と古典碁の違いはここだ。古典碁では、おたがい活きている石でも、相手の石を切り離して分けてしまえば、最後に2点得をするのである。

たとえば上の図では、黒は1つのかたまり、白は3か所に分かれているので、白は黒より4点多く負担することになる。
なぜ切り賃が必要だったのか
くり返すが、古典碁の「地の中に石を1個ずつ打っていく作業」を省いて、地を数える方式にするために「切り賃」が必要だった。数えやすいように盤上の石を動かす(整地する)と、かたまりがいくつあったかがわからなくなる。覚えておかないと、かたまりごとに得点にならない2点が足されてしまうのだ。
これには対局者の合意がいる。合意にこだわるのは、2人がこの数え方の意味をわかっているかどうかが大事だからだ。石を1個ずつ置くはずの場所を数えてしまえば、結果は同じで手間もかからない。三千年前の人も、いまの人も、考えることは同じなのである。
合意したら、ダメを打ったあとの地を数え、取った石を足し引きし、切り賃を考えるのは審判の役目だ(もちろん審判がいなければ対局者がやる)。審判は整地するとき、白黒それぞれがいくつのかたまりに分かれていたかを忘れてはならない。切り賃=かたまりの数×2だからだ。
そうそう、言い忘れていた。この数え方では、それまで相手に返したり盤の外に置いたりしていた取った石を、覚えておく必要がある。覚えるのが面倒なら、碁笥のふたにでもとっておけばいいだろう。
編集部のひとこと
「切り賃」は、いまの日本ルールにはありません。でも、「石を全部置いたら得点にならない二眼の分を、あとから引く」と考えると、ちゃんと筋が通っていますね。
石が分かれているほど損をする——。つまり昔の碁では、相手の石を切り離すこと自体に価値があったわけです。いまの碁とは、作戦の考え方まで少し違っていたのかもしれません。
✅ 第7話のまとめ
- 切り賃は、得点にならない「二眼」の2点を引くもの
- 石のかたまりが多いほど、切り賃も多くなる(かたまりの数×2)
- 地を数える方式にしたとき、石を全部置いた結果と合わせるために必要だった
宮国さんの原稿は、このあと、いろいろな書物から考えた囲碁の歴史や、「切り賃」がなくなっていった背景へと続きます。続きは第8話「19路盤は天からの授かりもの?」でどうぞ!
