囲碁コラム

【清楽 碁物語 第6話】「石を数える」から「地を数える」へ 碁の数え方はなぜ変わった?

第5話の最後で王先生は「次は、いまの碁と清楽の碁の違いを説明します」と書いていました。今回はその話です。

清楽式では、終わったら盤の上の石を数えます。いまの日本の碁では地を数えます。では、碁はいつ、なぜ「地を数える」ようになったのでしょう?宮国さんの大胆な推理を、王先生が語ります。

📌 この回でわかること

  • 五路盤から十九路盤へ、碁はどう大きくなった?(宮国さんの仮説)
  • 「石を数える」と「地を数える」で、勝ち負けが同じになるわけ
  • 石を1個ずつ置く手間を省くために生まれた計算式

📖 原稿より

碁盤はどうやって大きくなったのか

王先生王先生
これまで説明してきた碁は「古典碁」「入門碁」と呼ばれます。五路盤くらいからはじまったであろうこの碁が、どうやって今の十九路盤まで進化していったのか。仮説を立てながら推理してみましょう。

はるか昔、遊び好きな子どもたちが、外の地面に描いた五路盤くらいの盤で試行錯誤しながら、この遊び(碁)を作ったのだろう。ゲームとしてルールが整えば、五路盤から九路盤まではあっという間だ。

九路盤くらいになると大人も参加する。すると、子どもだけに独占させるのはもったいない楽しさだとわかる。このころには道具も整って室内のゲームになり、カード遊びや将棋、双六などと並んで盛んになっただろう。賞品がかかることもあったかもしれない。

碁盤は一度作れば長く使えるが、碁石はそろえるのも、なくさないようにするのも大変だ。九路盤より大きな盤にするには、石の数をそろえられるかどうかが現実の問題だったはずだ。技術が上がれば九路盤では物足りなくなり、十路、十一路と試していく。

碁が大陸あたりで生まれたとすれば、国が統一される前から打たれていて、盤の大きさも土地ごとに違っていただろう。人の交流は文化の交流でもある。言葉の通じない者どうしが碁を打ったことも、きっとあったはずだ。

碁を「手談(しゅだん)」——手で語り合う——とはよく言ったものだ。そのときのルールは、この「古典碁」でなければならない。この方法でなければ、短い時間で碁は覚えられないからだ。

やがて国の形が整い、物の行き来が盛んになれば、碁石も簡単にそろう。そして長い時をへて、十七路盤くらいに統一されていったのだろう。中国ではもう孔子の時代になっていたかもしれない。朝鮮半島をへて渡来人が日本に碁を持ちこんだのは紀元前後、大陸では漢のころだろうか。

では、いまの十九路盤になったのはいつごろか。十七路盤が十九路盤になった段階で、叙事詩ともいえる壮大な試みが、知識人たちによってなされたと推定できるのだ。

五路盤で、2つの数え方をくらべてみる

その試みを考える前に、五路盤でもう一度、古典碁を見ておこう。

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黒21が打たれ、白がパスし、黒もパス。両者が終局に合意し、審判が盤上の石を数える。白10個、黒11個で、黒の1目勝ちだ。

いまの日本では、黒11の時点で対局者どうしが終局に合意する。手続きとして白12、黒13とダメを詰め、白14で終わる。記録も黒11で「完」だ。そこで地を数えると、黒地6目、白地5目で、やはり黒の1目勝ちになる。

「石を数える」と「地を数える」で勝敗が一致した。これは偶然ではない。いま日本で打たれている碁は、この古典碁から変化してきたのだ。では、どうして変わったのだろうか。

九路盤だと、こうなる

次の棋譜は、初級者どうしが九路盤で打ったものだ。

黒29、白30と自分の地の中に打ちはじめ、黒63のあと白はパスを続け、黒は自分の地の中に打ち続ける。黒91で終局だ。

黒石46個、白石31個で、黒の15目勝ち。ちなみに日本式なら黒29で終局し、黒地33目、白地19目で黒の14目勝ちとなる。

「1個ずつ置く」のが面倒になった

この「パスのあとに石を1個ずつ置いていく作業」がなんとも単調だ。九路盤ならなんとか我慢できるが、それより広くなると、工夫しなければ碁の魅力そのものが失われかねない。盤が大きくなれば、そのぶん石も用意しなければならない(九路盤でも81個以上)。

そこで、石を置くはずのところ(地)を数えて、盤上の石と合計すればいいと気づく。たぶん石が足りなくなって、埋めるはずの場所をいちいち数えたのがきっかけだろう。その手軽さを知ってしまえば、たとえ石がたくさんあっても、もとには戻らず数えて済ますに違いない。ただし、対局者どうしの合意が前提だ。

だから、そのころの数え方はこうだ。

石の数 + 地 + 取った石 = 得点

上の九路盤にあてはめると、

  • 黒=15(石)+33(地)+0(取った石)=48
  • 白=14(石)+19(地)+0(取った石)=33

ここから、黒・白ともに「切り賃」として2点ずつ引く。

  • 黒 48−2=46点
  • 白 33−2=31点

黒の15目勝ち。石を全部置いたときと同じ結果になる。

ここでは取った石を自分の得点に足したが、相手の地から引く(相手の地を埋める)のが日本のやり方だ。アジア大陸(おもに中国)でも、長いあいだこの方法だった。

編集部のひとこと

石を1個ずつ置いていくのが面倒だから、数えて済ませるようになった——。そう考えると、地を数えるのは「石を全部置いたらどうなるか」を先回りして計算する方法だとわかりますね。

古典碁=中国式というわけではありませんが、くらべてみると、日本式は「地 − 取られた石」の引き算だけで済む、とても合理的な数え方です。日本式をもとに国際統一ルールを作ってもいいのでは?と思ってしまいます。

そして計算式に、いきなり出てきた「切り賃」の2点。これはいったい何なのか?次回でスッキリします。

※ 碁盤の大きさの変化や日本への伝来の時期は、宮国さんの推理です。囲碁の歴史には諸説あります。

✅ 第6話のまとめ

  • 宮国さんは、碁は五路盤から少しずつ大きくなったと考えている
  • 「石を数える」と「地を数える」で勝ち負けはほぼ一致する
  • 石を1個ずつ置く手間を省くため、「石+地+取った石−切り賃」で数えるようになった

次回予告

第7話は、計算式に出てきた謎のマイナス2点「切り賃」の正体にせまります。

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